虚と実
先日、映画「八犬伝」を見ました。(ネタバレ注意)
南総里見八犬伝のストーリーと著者である曲亭馬琴の生涯と苦悩が並行して描がいた作品です。
どちらかと言えば南総里見八犬伝パートは単調に描かれており
それよりも曲亭馬琴の人生や家庭、葛飾北斎、鶴屋南北などの人間関係を色濃く描いた作品なんだと思います。
ここで私が注目したのが鶴屋南北です。
鶴屋南北といえば四谷怪談を歌舞伎として生み出した人物(諸説あり)
映画内でもそうですが、江戸時代当時の実際の演目でも忠臣蔵と四谷怪談がセットで演じられていたそうです。
実際に起きた忠臣蔵という事件
四谷怪談は元になった事件はあるものの創作であり作り話
(以下ネタバレ:実際に以下のやりとりがあったかは不明)
この舞台を見た馬琴は怒り「なぜ実の物語と虚の物語を同時に演じるのか」と南北に詰め寄ります。
「虚と実、これで辻褄合わせなんだと」と答えます。
その答えにさらに怒る馬琴「それは正義を貫いた実の物語を侮辱するものだ」と言うと
南北いわく「誰が忠臣蔵が『実』で四谷怪談が『虚』だと言いましたか?」
丁度そこいに居合わせた北斎は「確かに忠臣蔵は『実』ではない」と言います。
実際の映画ではもっと細かいやり取りがあるのですが
この世の虚と実をめぐる討論が繰り広げられます。
馬琴は生涯この時の3人のやり取りを忘れなかったのかもしれません。
映画を見た私も、ここが一番の見どころだと感じました。
命を懸けて書き上げた南総里見八犬伝は序盤の伏線回収を含め勧善懲悪に拘った物語
なぜ勧善懲悪に拘ったのか?なぜ南北の言葉に怒り詰め寄ったのか?
南北は言いました「この世に実などあるのでしょうか?」
馬琴はその答えを誰よりも知っていたから、勧善懲悪に拘ったのではないでしょうか?
民の苦しみを救わんと奮闘した石山本願寺は信長の命令により女子供も含め全員焼き殺されました。
日本経済を飛躍的に発展させ富国強兵に勤めた信長は謀反人明智光秀により殺されました。
現代の歴史教科書では、傍若無人悪逆非道なる織田信長を打ち取とり日本を救ったとされている明智光秀
彼もまた三日天下でこの世を去っています。
赤穂浪士は・・・新選組は・・・坂本龍馬は・・・
チェゲバラは・・・ヒトラーは・・・プーチンは・・・
正義は勝?
私は正義が完全に勝利した歴史を知りません。
映画の中で南北が言って言いました「辻褄合わせなんてどこまで行っても出来るものじゃありませんよ」